京阪淀屋橋AM7.00発の特急電車に乗車して,AM7.55出町柳駅で下車。駅前から京都バスAM8.10始発の雲ケ畑岩屋橋行きに乗車する。行楽シーズンともなれば,多くの観光客・ハイカーで賑わう路線バスも乗客は私達以外は4名のみ。
停留所での乗降客も少なく,起点となる岩屋橋には予定より10分ほど早く到着。バス停より左手の祖父谷川」に架かる岩屋橋を渡り,料理旅館「畑嘉」の前でスパッツを付け身繕いする。昔,岩屋橋付近は志明院の門前として,また雲ケ畑は朝廷に献上する御供人の活動地であり,明治時代に宮内庁の御猟場として栄えた所でもある。
今では2軒の料理旅館が残るだけで淋しいが,囲炉裏端ぼたん鍋,野趣豊かな季節の味覚で喜ばれ,四季折々の美しい自然と相まって,京の奥座敷として親しまれ,訪れる人は多い。2日前の寒波襲来で京都北山は積雪多いとの情報だが,やはり山懐の岩屋橋は既に冠雪状態である。ストックを持ち早々に出発とする。惟喬神社の鳥居を右に見て, 背に朝陽を受けながら鴨川源流を成す岩屋川沿いの車道を通り,志明院に向かう。蛇行した小川のせせらぎの清音を聞き,幾度と橋を渡り杉林を眺めながら,早春には瑠璃色の可憐なヤマルリソウが咲く登り坂を行く。
ふと道端の雑木に取り付けたー4℃を指す温度計が目に入る。しかし,ザックを背負い坂道を登る身体にはさほど寒さの実感はない。程好くペースが上がって来た頃には,古くから山岳信仰の地であり,修験道の行場として護持される岩屋山志明院<岩屋不動>の鐘楼前に着く。境内の石楠花は市の天然記念物に指定され有名である。休憩取らず,駐車場手前の右手に薬師峠登り口,桟敷ケ岳への道標を確認して細い登山道に入る。清澄な空気漂う境内を左眼下に見て,植林された杉林のなか積雪を踏みしめ登山道を辿る。静寂な山林に野鳥の混群(シシ゛ュウカ゛ラ・コケ゛ラなど)の鳴き声を聞き,新雪に小動物の足跡を見うけながら,渓流沿いを快調な足取りで登ると道標ある分岐に出る。「薬師峠を経て桟敷ケ岳,徒歩約1時間50分」との案内を確認して,まずは最初の小休止。怠りなく水の補給と軽い食べ物を取り出発する。周りの美しい霧氷に目を奪われながら,緩い斜面を登りつめると老樹の下で雪化粧した六体地蔵のある薬師峠に着く。此処は,かって大森地区と雲ケ畑を結ぶ生活道であり,峠茶屋と想える小屋もあったとされるが,今は朽ちて無く古を偲ぶ事は出来ない。
薬師峠からは尾根伝いに北上すれば,約90分で目指す桟敷ケ岳である。一息入れ,右折れ雑木林の中を登りつめて直ぐ左手に円陣を組む形の惟喬親王のお墓がある。皇位継承に敗れて京都北山に出家隠栖した悲運な人物,また歌人として知られる。杉林と雑木林が交互に現れ,樹枝やクマササが足に纏い行く手を阻まれながら,稜線に出た頃には20cm程の積雪である。春浅い陽の光を受け白雪が眩しくキラキラと輝いて見える。雑木の多い自然林を左方向に巻きながら,緩い下りを行くと分岐となり,右下は西谷林道を経由「岩屋橋」へと繋がる。
此処は直進して,小さなコブを越え山腹を巻く登りで高度を稼ぐ。視界が開け樹間から仰ぐ青い空はいよいよ澄み,常緑低木のアセビの枝葉は重い積雪に大きく垂れ下がり,今にもおれんばかりである。暫く続く山腹を巻く道幅は30cm程の狭さ,踏み跡を辿り緊張して登りつめると伐採地で開けた所に出る。西前方には周山方面の山並みが広がり,左眼下には山間の大森集落やキャンプ場が望める。茲は休憩とらず,山腹右側のやや傾斜のある巻き道を登りつめると,風光絶佳,見事な霧氷の銀世界が私達を迎えてくれた。感動的な景観に思わず皆さん異口同音にキレイ・スゴイと感激・感嘆の連続。
思い思いにデジカメを取り出し,夢中にシャッターを切る。雪山ハイクの至福を実感する。
左に岩茸山の雪景を眺めながらの急登,早春の光射す森の景色,雪泥の左斜面も快調な足取りで登る。既に薬師峠を出発して40分経過,雪山をして順調なペースでの登高。桟敷ケ岳頂上までのほぼ中間点となるモミの大木のある所で,ひとまず休憩を取り後半に備え体調を整える。尾根伝いの雑木林は霧氷のトンネル状態。想像を超えた夢と幻想の世界を歩く気分は最高。背を屈め潜り」進むとやがて視界が開け,幾重にも雪稜連なる展望となり,送電線鉄塔のある広場に着く。
目の前には目指す桟敷ケ岳が望め,東方は花背峠方面や比良山系,西方は城丹国境尾根に繋がる山々と眺望は素晴らしい。暫し絶景を眺め堪能して,頂上目指し出発する。冬枯れしたクマササをかき分け,一旦は鞍部まで急降下する。そして少し登り返す桟敷ケ岳山頂(標高895.8m)に着く。岩屋橋より2時間25分経過,まずは順調な登り。山名の由来は惟喬親王が都を懐かしんで山頂に桟敷(高楼)を築いて国見をした事による。俄かに小雪舞い散る。記念写真を撮り,西南稜の飯森山・天童山を眺めながらの昼食とする。頂上の積雪は50cmはある。雪質も低温のため乾雪<粉雪・ハ°ウタ゛ースノー>で軽く,サラサラ状態であり,感触良い。熱い飲み物を取るが一向に身体は温まらない。風や雪の中では長居は禁物と早めに下山する。ナベクロ峠に向けて雑木林の急降下の道に入る。尾根道だが多少のアップダウンを繰り返して,低木の垂れ枝を払い平坦な道を辿ると峠に出る。目指す祖父谷峠への道標を確認して,直進すると鉄塔がある開けた大地に出る。直進は城丹国境尾根に向かう。よく迷う分岐点のため再度,枝に吊るした「祖父谷・石仏峠」の道標を確認して,右折れ後方より尾根伝いに杉林の急坂を下る道を進む。程なく伐採地の展望開けた所で振り返ると,私達を淋しく見送るかの如く,雪稜の向こうに桟敷ケ岳の頂が僅かに望める。
眺め良く比良山系を見やりながら新雪を踏み,気分良く下ると三叉路の分岐である祖父谷峠に着く。巨杉に囲まれた鬱蒼と茂り暗い峠だが,遠い昔から若狭と京を結ぶ街道として,里の人が行き交った歴史と文化を持つ,懐かしくもあり淋しげな雰囲気を持つ,京都北山らしい峠でもある。真直ぐは石仏峠に向かうが,右折して鴨川源流となる祖父谷川沿いの林道(府道61号京北線)を下り,起点の雲ケ畑岩屋橋に戻るコースを行く。杉林に囲まれた渓流に沿うぬかるむ山道を,慎重な足取りで行くと桟敷ケ岳からの道と出会う。谷川や山道の幅もだんだん広くなり,見事な北山杉の美林を眺めながら,退屈な林道を足早にバス停に向かう頃,小雪舞う見事な風花が現れる。桟敷ケ岳からの吹雪く名残雪だろうか・・・。タイミング良くバスに乗り,白梅・紅梅に彩られ香り漂う山間の里,春まだ浅い雲ケ畑を後にする。(M 記)
◎(時間記録)京阪淀屋橋駅7.00=出町柳駅7.55→8.10(京都バス)=雲ケ畑岩屋橋バス停8.55〜9.15→岩屋不動9.40→薬師峠10.10→桟敷ケ岳11.40〜12.15→ナベクロ峠12.45→祖父谷峠13.05→雲ケ畑岩屋橋 バス停14.30(京都バス)=出町柳駅15.10
(参加者)Kさん,Hさん,Hさん,Sさん,Hさん,M(6名)
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