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20048月29日「伏見稲荷〜将軍塚」

台風16号の影響で天候は生憎の曇り模様。それでも京都一周トレイル東山コースを歩く自然ウォッチングを楽しみに,初級向けであるが10名が参加された。京阪電車に乗り,本日のスタート地点である伏見稲荷にはAM9.06に着く。商店街,御土産店並ぶ表参道を通り,大きな鳥居と楼門を潜ると稲荷大社本殿である。東山36峰の最南端に位置する霊峰<稲荷山>を神体山信仰と崇め,五穀豊穣,家業繁栄の神として古くより庶民の深い信仰を集め,通称「お稲荷さん」として親しまれ,参詣者で賑わう。
手水を使って身を清め,御賽銭をあげて山行安全,心願成就を祈念する。小休止の後,本殿の裏手から赤い鳥居で有名なビューポイント「千本鳥居」のトンネルを抜け,御山参道の急な石段を黙々と登りつめると,京都市街や愛宕山まで一望できる分岐の四ツ辻に着く。ザックを置き,待機組2名を残して山中の神蹟・お塚を巡拝する“お山めぐり”に出発。参道の両側は松・杉の老樹が鬱蒼と茂り,閑寂幽遠の境地,霊山の神秘な雰囲気が漂う。また奉納された数万を数えるお塚が到る所に群在しており,信者から寄進された数千もの朱に彩色された鳥居が,林立渾然とする稲荷信仰の姿を示して偉観である。

左回りコースを取り,三の峯,二の峯を通り最高峰の一の峯<上之社神蹟>にて再度参拝する。周回して元の四ツ辻に戻る。早々とザックを背負い左折して京都一周トレイルの東山コース(24.6km:伏見稲荷〜比叡山頂)を辿る。自然景観や歴史的雰囲気・文化に触れながら,のんびりと山沿いの道・尾根道・峠道を辿る低山ハイク向けのコース設定がされ楽しめる。また分岐点や要所にガイドポストが整備されて迷わず歩ける。裏参道の稜線を暫くダラダラ下ると人家があり,ショートカットして細い階段を降り,橋を渡ると住宅地に入る。さらに行くと人家を離れ林道に入り,やがて開けた泉涌寺の大門に着く。この地域は歴史的風土特別保存地区に指定されている。歴代天皇の山陵がこの地に営まれるようになり,皇室から厚い崇敬を受け,その縁故極めて永くまた深いとされる。爾来,日本で唯一の皇室の菩提所として篤く信仰を集めるところとなり,「御寺(みてら)」と呼称される。境内は清澄・森閑として仙境の雰囲気があり,また数多くの伽藍が建ち並び,国宝や重文などの文化財を数多く所蔵されている。ゆっくり拝観したいところだが,先を急ぐことにした。

将軍塚で記念写真

今熊野観音への参道下を潜って,静かな道を抜けると旧い低い屋並び集落に出る。ここ蛇ケ谷地区は良質な陶土を産するので古くから陶工が住んでおり,伝統ある技法での陶芸品を陳列した家を見かける。集落を抜け左折すれば剣神社に向かうが,トレイルは右に取り滑石街道を横断して六条山へのジグザグ登りに入る。時折,谷間から吹き上げる涼風が汗ばむ身体に心地良く,頑張る力を与えてくれる。山道辺りは羊歯の茂みが続き,足元には椎の実が台風の影響か数多く落ちている。阿弥陀が峰分岐で一息入れ,杉木立を通り国道一号線に出る。東山コースで唯一判りづらい所,一旦左折して直ぐ渋谷街道を横切り,右折して地下トンネルを抜け国道を横断する。急な階段を上り公益社の角を左折すれば,第29峰清水山の登り口。コナラ・リョウブ・クリ・タカノツメ・ヒサカキなどの森林,過ぎゆく夏を惜しむけたましいセミの鳴声,得体の知れない多種多様でカラフルな怪しいキノコが異常に生育,見上げれば青い山栗の実,遠くで微かに虫の音・・・森は一足早く訪れる秋の気配。ふと案内板を見れば“東山風景林”。この付近の山林は有名社寺<銀閣寺・清水寺・南禅寺>の裏山で重要な借景となっているので保護・管理されているのだろう。

やや急登が続くが快調な足取り,一気に登りきると清水山頂上(標高242m)に立つ。三等三角点はコースを僅かに外れた樹林の中にあり,見晴らしは利かないがタイミングを計り昼食にする。竹林の木漏れ日を浴びながら,東山独特のなだらかな尾根を暫く下ると清水寺分岐に出る。「檜皮の試験採取」の看板が目に入る。古来の神社仏閣には檜皮葦は欠かせないが,採取する檜が減り,檜皮を剥ぐ職人<原皮師>の不足で必要量の確保・供給が難しい。分岐に高台寺山国有林の看板,右折れして鋭角に急降下すると貯水池あり,平坦な保安林を抜けると東山山頂公園の広い駐車場に出る。市営展望台からは伏見・東山方面・嵐山・愛宕山・北山方面が一望できる。ゆっくりとした休憩を取り体調整え,僅か2〜3分歩くと清蓮院大日堂に着く。本尊大日如来像が安置され,境内には桓武天皇が王城鎮護のため土の武将像に甲冑を着せ,弓矢を持たせ,京都の方を向けて埋めたとされる将軍塚がある。

記念写真のあと俄かに日差しが強くなり,早々に将軍塚を右に巻きながら下ることにする草いきれに閉口する。木立の合間に京都市街・北山辺りが見え隠れする。麓の尊勝院まで一気の下り,しばらく境内で最後の休息を取る。市街地への坂道を下り,風情ある白壁の土塀・石畳の小路を通り,粟田神社の横を抜け三条通りに出たところで解散とする。